14. アメリカの銃乱射に関する一考 【コラム:異文化の海を泳ぐ】

今回 はアメリカで多発している銃乱射の背景と問題点について述べてみます*。内容がこれまで触れてきたものといささか違いますが、日本と状況が異なる点で異文化の問題と考えてもいいかと思い筆をとりました。

4月のカルフォルニア州での事件を皮切りに5月中旬ニューヨーク州バッファローでの事件、5月末にテキサスの小学校で多数の生徒と先生が犠牲になるという痛ましい銃乱射事件が立て続けに発生しました*。更に7月4日には米国の独立を祝うパレードに向けて銃が乱射され8名の犠牲者を出す惨事となりました。これらに共通している事は一度に大量の弾丸を発射できる所謂アサルトライフルという一見軍隊の銃とほぼ同じものが使われた事です。何故この様な銃の製造や販売が許されているのか不思議でなりませんが、この様な疑問はここでは多数の声にはなりません。

日本以外の他の国でも同様な事件が過去におきましたがその対応は全く異なりました。数年前にニュージーランドで起きた事件の後、同国首相は即刻この様な銃の販売を禁止する意向を示し、数週間後には立法化しました。又今回の事件の後、カナダの首相も同様の意向を表明しています。同様な事件は過去にも何回となく起きていますがこの国では論点が別の方向にいき、銃規制が大きな声にはなりません。学校での乱射に対しては教師に銃を持たせて自己防衛させる案や、精神疾患者への規制強化案等どれも銃規制そのものには触れないでおきたい意図が見え見えです。テキサスでの乱射事件の後、さすがに銃規制を必要とする声が大きくなり、議会も規制の方向性で調整が進み、最近ようやく法案が成立しましたが、内容は銃そのものの規制ではなく、私から見たら全く不十分ですが、この連邦法が実に28年ぶりとは驚きです。何故この国では銃規制が進まないのせしょう。その一つは合衆国憲法、特に修正憲法第2条に起因していると思います。この条文は以下のようなものです。

“A well regulated Militia, being necessary to the security of a free State, the right of the people to keep and bear Arms, shall not be infringed.”

「規律ある民兵団は自由な国家の安全にとって必要であるから、国民が武器を保有し携帯する権利は侵してはならない。」

私が初めてこの条文を読んだ時、これは民兵組織に参加する国民に武器の保有を許しているもので、個人の武器所有を認めているのではないのではと感じました。そもそも本条文が制定された18世紀の頃は絶えず外敵の圧迫を受けていた時代で、今の様な連邦軍組織はなく、これに対抗する為には民兵組織が重要な地位をしめていたのでこの条文は十分意味を持っていたと思います。しかし、現代は民兵組織など不必要な環境下ではほとんど死語に近い内容に思えますが、今でも頻繁にこの条文が引用されているのは何故しょうか?

更に調べると、少なくとも20世紀前半までは私が感じた様な解釈がなされていた様で1939年の最高裁判例ではこれを支持しています。しかし最近はもう一つの解釈、即ち本条項は民兵組織に限定されず、個人の銃所有の権利を認めるもので、最高裁の最近の判例もこれを支持しているので現在ではこの解釈がされていると思います。ここまでお読みいただければこの国では銃乱射による多数の犠牲者が出ているにもかかわらず銃規制が進まない理由がおわかりいただけると思います。憲法に保障された個人の銃所持を理解したとしても大量殺人を引き起こすセミオートライフル所持規制だけでもできないものかと思うのですが、それさえ多数意見にはなりません。これは元々の解釈である民兵組織で敵と戦うための武器も必要との認識が国民の意識の下に存在しているのかもしれません。

最後に凶弾に倒れた故安倍晋三氏のご冥福をお祈りすると共にご親族の方々に謹んでお悔やみ申し上げます。

それでは次回お目にかかりましょう。

* この記事はデトロイト日本商工会の会報「Views」に2022年7月に掲載されたものです。

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